“祈り”を支える匠たち
ひとつの仏壇に宿る、
数多の手仕事
現代仏壇・仏具は、全国各地の協力工房と手を取り合い、それぞれの技と感性を活かした商品づくりを行っています。 伝統と現代の感性が交差する場所で、一つひとつの製品に宿る職人の思いと、決して妥協しないものづくりの姿勢をご紹介します。
人気の上置き仏壇『ショコラ』の扉は、182個ものウォールナット無垢材のブロックを、職人が手作業で並べて製作しています。木目の一つひとつを見極めながら組み上げることで、世界に二つとない表情が生まれます。
『ショコラ』の製作を担当している、鳥取県にある「株式会社新木コーポレーション」を訪れました。
MOVIE
「どんな風に仏壇がつくられているの?」 新木コーポレーションの作業風景を撮影しました。現場の空気、職人の手さばき、素材が形になる瞬間を動画でご覧ください。
ブロック扉ができるまで
『ショコラ』の扉づくりを任されているのは、職人たった1人。品質を揃えるために、最初から最後まで同じ手で仕上げる――その徹底した姿勢が、均整のとれた美しい扉を生み出します。 まずは無垢材から一つひとつのパーツを切り出し、表面を磨き上げて整える。そして寸法や木目を確かめながら型に並べていきます。 木目の表情は一本ごとに異なるため、仕上がりの印象を左右するのは職人の目利きと経験。その確かな選びと技が、落ち着きと品格を兼ね備えた『ショコラ』の扉を形づくっています。
モダン仏壇『コローレ』は、十種類もの無垢材の板を巧みに組み合わせた扉が最大の特徴。木の質感や色味の違いが織りなす寄木の模様は、どの角度から見ても表情豊かで、美術品のような佇まいを持ちます。
この仏壇の製作を手がけるのは、長野県松本市にある『髙山家具製作所』。元々はオーダーメイド家具を中心に取り扱ってきた工房で、お客様一人ひとりの要望に合わせて様々な家具を作り上げてきました。その経験と高い技術力が『コローレ』にも生かされています。
扉づくりの舞台裏
『コローレ』の扉は、計10種類の無垢材54本を繋ぎ合わせています。まず木材を板状に加工し、寄せて接ぎ、さらにほどいて調整…といった工程を繰り返していきます。この“繰り返し”こそが、精緻で美しい寄木模様を生み出す鍵です。扉のじゃばら構造の裏側まで見せるデザインは、美しさと機能性の両立を意図した仕様です。 細部に至るまで使い手への配慮が行き届いており、扉を開けたときの感触や軽さ、木肌の触り心地にまで職人の心が宿ります。素材選びから仕上げまで、「触れて」「見て」暮らしの中で実際に使われることを想定して設計された仏壇です。
ステンドグラスを通してやわらかな光が零れ落ち、ランプのように祈りの空間を優しく包み込む『灯りの仏壇』。その美しさに一目惚れして購入される方も多い仏壇です。
印象的なステンドグラスは、長野県安曇野の工房「studio KAZ」で制作されています。工房を営む大須賀昭彦氏・和子氏に作業の様子を見せていただきました。
共同作業で仕上げるステンドグラス
ステンドグラスの製作はすべて手作業。まずはデザインを話し合い、3D図面に起こすところから始まり、ガラスの種類・色調・テクスチャーを選定します。作品によっては、ガラス表面に独自の加工を施すこともあります。 カットや組み立ては昭彦氏、はんだ付けは和子氏と、ご夫妻で工程ごとに役割を分担。シンプルモダンでありながら、どこか和の趣も感じさせるデザインは、アンティーク家具だけでなく和室にも自然に溶け込みます。
沖縄の透き通った海を思わせる、鮮やかなエメラルドグリーンのガラス仏具『水影(みかげ)』。水と光の影が揺れるような模様が浮かび上がるその表情は、他に類を見ない美しさを放ちます。
『水影』の製作を担うのは、沖縄本島最南端にある琉球ガラス村。シリーズの生みの親である友利龍氏の想いと技を取材しました。
MOVIE
友利氏のインタビューを織り交ぜながら、工房の熱気や職人の手さばきを映した動画です。ガラスに波模様が生まれる、神秘的な瞬間をぜひご覧ください。
沖縄の海を映す模様
『水影』はすべて職人の手作業によるもので、一つとして同じ模様は存在しません。琉球ガラス村では、その工程を実際に見学することが可能です。窯の温度は1300℃に達し、工房内は40℃を超える熱気。ガラスは熱く柔らかいうちにしか成形できないため、作業は一瞬の判断と高度な技術が求められます。まずは「下玉(しただま)」と呼ばれるガラスのかたまりを窯から取り出し、手早く息を吹き込みながら形を整えていきます。 「水影の制作は今でも難しい」と友利氏は語ります。沖縄の海と職人の心が織りなす、唯一無二の輝きを、ぜひ大切な祈りの場所に飾ってください。
温かみのある形とやさしい色合いをまとい、祈りに寄り添う──陶芸作家・市川和美氏が生み出す仏具たち。『月明り』をはじめとした五具足・ミニ骨壺など、多彩なアイテムは、手に取ったときのやさしい手触りと、どこか懐かしさを感じさせる表情を持っています。
このシリーズを制作しているのは、奈良県生駒市の陶芸工房「一風工房」。16種類以上に及ぶ仏具を、市川氏が全工程に関わりながらその温もりある世界観を作品に宿らせています。
MOVIE
工房の様子を撮影しました。市川さんの世界観を、ぜひ動画で感じてください。
手仕事が生む唯一のかたち
すべて手作業で仕上げられており、一つとして同じものは存在しません。器の形状に応じて「手びねり」「ろくろ」「タタラ」といった技法を使い分け、土の乾燥や素焼き、施薬、本焼き、絵付け、焼き付けへと工程が進みます。使用する土や焼成時の窯の状態によって色味や質感が微妙に変化するため、全く同じ色を再現することはできません。だからこそ、釉薬の調合にも市川氏の長年の経験が活かされています。試行錯誤の末に生まれた形と色が、祈りのカタチに寄り添います。