器の中に広がる物語



 

温かみのある土の質感はありながらも、細やかなストライプ模様が洋風な仏具「星の夜」。和と洋どちらの雰囲気も感じられる人気の五具足です。

 

今回ご紹介するのは、そんな「星の夜」の生みの親である陶芸家 市川和美先生です。

奈良県生駒市の自然豊かな山麓にある工房へお伺いしました。

 



 

―本日はよろしくお願いします。陶歴を読ませていただいたのですが、大学卒業後にかなり若くしてこの工房を作られたんですね。最初に先生が陶芸家になろうと思ったのは何がきっかけだったんですか?

 

市川先生:

16歳だった当時通っていた高校の卒業生の方が、発掘調査の出土品としてイスラム陶器の陶片を持って講演に来て下さったんです。その時目にしたきれいな模様と色に一瞬で魅了され、陶芸家を目指しました。

そうそう、ちょっとこれを見てください。

 



 

先日、お友達から要らない本を処分するので良かったら見に来ない?と言われ行くことになったのですが、そしたらびっくり!なんと「ペルシアのやきもの」という本を見つけたのです。嬉しくって思わずすぐに引き取りました。この本には私が心動かされた陶器がたくさん載っています。細かい模様がたくさん描かれていて鮮やかで・・・とても素敵ですよね。

 

―本当ですね!色使いも鮮やかで、とても大昔のデザインとは思えないです。こうして見ていると、植物の繊細な模様や温かみのあるデザインからは、先生の作品と共通点を感じられるような気がします。先生は陶芸家になろうと決めてから、すぐに今のような作品を作られたのですか?

 

市川先生:

いえいえ、最初はしっかり基礎から学びましたよ。恵まれたことに自宅から徒歩5分くらいのところに陶芸教室がありましたので、そちらへ通っていました。現在のような作品を作りたいと思ってからは、釉薬の色の出方や土の配合など、全て手探りです。私の作品の釉薬にはこの土地「生駒」の土を使っているのですが、自分自身で裏山へ登って汗だくになりながら採ってきています。

 



 

―えー!それはとてもびっくりです!生駒の土を使っているというのも驚きましたが、何より先生ご自身で土を取りに行かれているということに驚きました。イスラム陶器との出会いから始まり今の市川先生が在ると思いますが、作陶をされる上で大切にされていることはなんですか?

 

市川先生:

一番大切にしているのは「自分の作りたいもの」を制作すること。土、釉薬、焼成、形、模様、全てが統合されて出来る自分らしさ。また、食器などは使いやすいだけじゃなくて、使う人の気分が変わって楽しんで貰えるような器であることを意識しています。

 



 

―棚に並んだ作品を見ているだけでワクワクします。そういえば、市川先生の作品には家や本のモチーフが多いのはどうしてですか?

 

市川先生:

単純に本や家が好きなのですが、なにより「中に物語があるもの」が好きなんです。

 

―「中に物語があるもの」とは、どういう事ですか?

 

市川先生:

本に物語があるのはもちろんですが、家にはそこに住む人たちの物語があって・・・。その人の大切なものを入れることで、初めて私の作品の中に物語が広がります。箱状にしていますが用途なども特に考えていなくて、思い思いの使い方をして頂けたらいいなと思っています。

 

―なんだか少しだけ市川先生の頭の中を覗けたような気がしてとても楽しいお話でした。

最後に、仏具に込めた想いを聞かせてください。

 

市川先生:

様々な祈りのカタチがある中、それぞれの想いで大切な人とつながる時間に、私の制作した仏具を置いてくださったらとても幸せだなと思います。

 

―ありがとうございました。

 

 



 

「作りたいものを思うままに」

心の向くまま作られた作品たちは、どれも温かみがあり素朴でやさしい雰囲気です。

インタビューを終えた今、それはまさに市川先生の優しく謙虚なお人柄が現れているのだろうなと腑に落ち、なんだか一人で嬉しくなりました。

 



市川 和美 氏

大阪府出身の陶芸家。現在は奈良県生駒市に工房を構え、古楽器や動物、家のモチーフなど温かく優しい時間の流れる作品が人気。全国の画廊や百貨店にて個展や企画展を定期開催している。

 

 

▼今回の工房取材とインタビューに合わせて、短い紹介動画を作りました!ぜひこのコラムと合わせてご覧ください!

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八木研の広報企画室勤務。働くママ目線で、お客様の役立つ情報を発信していきたいです。