一風工房の仏具づくり、祈りに寄り添う温もりある器

絵本の世界のような、素朴な表情の仏具たち

陶芸作家・市川和美さんが手がける五具足やミニ骨壺、小物など、全16種の仏具シリーズ。どのアイテムも味わい深い色合いと、手に取ったときのやさしい手触りが印象的です。温かみのあるかたちや模様は、まるで絵本や小説の一場面を思わせるような不思議な世界観をまとっており、どこか懐かしさや安らぎを感じさせてくれます。



五具足『星の夜』


素朴でありながら、現代のインテリアにも自然に馴染むモダンな佇まい。どの仏壇にも合わせやすく、暮らしの中にそっと寄り添う、やさしい仏具です。

工房紹介動画


奈良県生駒市の山中に佇む陶芸工房「一風工房」。ここでは、素朴で繊細、そしてどこか幻想的な世界観をもつ仏具が一つひとつ丁寧に生み出されています。

以前のコラムには市川氏のインタビューを掲載しています。合わせてお読みください。→器の中に広がる物語

生駒の工房を訪ねて

市川氏が初めて仏具を手がけたのは、約20年前のこと。五具足から始まり、ミニ骨壺や小物など、これまでに16種類以上の仏具を制作。どれも独自の表情と温かみを持ち、長年多くのユーザーに愛され続けています。


制作はすべて手作業。土を練るところから始まり、成形、乾燥、下絵、素焼き、施薬(釉薬がけ)、本焼き、絵付け、焼き付けという複数の工程を経て、完成までに最低でも2ヶ月を要します。器の形状に応じて、手びねり・ろくろ・タタラといった技法を使い分けており、それぞれに高度な技術と経験が求められます。



▲五具足『月明り』の花立の成形作業。こちらの花立は手びねりという、手だけで土をこねて形を作る方法で作られている。



▲焼成した陶器への絵付け作業。細い筆を使ってプラチナ彩と金彩で繊細に模様を描く。再び窯で焼き上げると、上品な光沢をもつ金と銀色で模様が浮かび上がる。


特に印象的なのが、釉薬へのこだわり。市川さんは作品ごとに独自に調合した釉薬を用いており、色の出方は土の性質や釉薬の配合、そして窯の中の還元(※)状態によって大きく変化するため、まったく同じものを再現することはできないといいます。
※還元…窯の中の酸素を少なくすることで、色や質感を変化させる焼成技法。




▲「イコマグロ」と呼んでいる赤い釉薬は焼成して鈍く光る黒色に発色させている。工房の裏山の生駒土を配合。



「だから毎回同じ作品は出てこないでしょう?どう焼き上がるのか、いつもドキドキしながら窯を開けています」

手仕事の極み、仏具の制作現場

市川氏の作品の中でも、特に制作が難しいとされるのが、四角い形状の仏具『月の華』『星宿る』。この2点に用いられているのが「タタラ成形」と呼ばれる技法です。今回、その制作風景を間近で見せていただきました。



まず、板状にのばした粘土を設計図に沿ってカット。続いて、各面を丁寧に削って角度を出し、箱の形状を整えていきます。あらかじめタタラで成形しておいた器の四隅にパーツを貼り合わせ、さらに削りを加えて全体のバランスを調整していきます。この工程では、繋ぎ目の多い構造ゆえにひび割れが生じやすく、粘土同士をしっかり接着させて強度を保つことが何より重要。



①設計図を基に粘土を切り出す。
②板状に切り出した粘土を調整しながら、面を斜めに削る。
③土台の器に貼り合わせていく。
④指やヘラを使い、繋ぎ合わせ整える。


仕上がりの美しさはもちろん、焼成に耐えるだけの堅牢さを持たせるには、高い技術と集中力、時間が必要とされます。


一見シンプルに見えるかたちの裏に、緻密な設計と丁寧な手仕事が積み重ねられている。そんな職人の真摯な姿勢が感じられるひとときでした。



『星宿る』花立の乾燥前と乾燥後を比べると、縮んでいることが一目で分かる。乾燥と素焼きを経ることでサイズが大きく変化するため、成形時には縮む割合を考慮して設計図を検討する必要がある。乾燥後には、表面に模様や絵付けのための下絵を刻んでいく。


仏具に込めた願いをお聞きすると「様々な祈りのカタチがある中、それぞれの想いで大切な人とつながる時間に、私の制作した仏具がお役に立てればとても幸せだなと思います」と、優しく微笑まれる姿が印象的でした。

一風工房で生まれる仏具は、器としての美しさと、祈りの場にそっと寄り添うやさしさを兼ね備えた、唯一無二の存在。それぞれの作品に宿る“いのちのかたち”が、多くの人の心に静かに届いています。

実物はお近くの現代仏壇の店舗ギャラリーメモリアでぜひご覧ください。デジタルカタログもご用意していますので、気になる方はぜひチェックを。

ものづくりストーリー
お盆特集へのリンクバナー

無料カタログのご案内

catalogイメージカタログイメージ

画面上ですぐにご覧いただけるデジタルカタログと
無料でお届けするセレクションカタログの
2種類をご用意しました。

住まいに合う仏壇選びに、ぜひご利用ください。

お電話でのご請求

0120-596-910

(受付時間/午前11時~午後6時 年末年始は除く)

このコラムについては
八木研の商品企画室に勤務し、商品の企画・デザイン・開発に関わっています。商品にまつわるこだわりや、開発の裏話など、カタログに収まりきらない情報を公開し、現代仏壇の魅力を伝えていけたら良いと思います。